職場の教養|鏡餅
正月に鏡餅を飾った家庭も多いでしょう。
鏡餅は新年の神様である「年神様(としがみさま)」の依代(よりしろ)としての供え物です。
餅の形が古代の銅鏡(どうきょう)に似ていたことから「鏡餅」と呼ばれるようになりました。
大小の餅は月と太陽を表わし、徳福(とくふく)が重なるようにとの意味が込められています。
また、橙を上に載せるのは家が代々と繁栄するように願いが込められています。
「鏡開き」は供えていた鏡餅を下げて、一年の健康を願って家族で食する行事です。
「割る」という言葉は縁起が悪いので「開く」と表現されます。
「つぎつぎに子ら家を去り 鏡餅」は加藤楸邨(かとう・しゅうそん)の俳句です。
子供たちが次々と家を出ていき、今はただ鏡餅とともに正月を迎えているのでしょう。
『源氏物語』「初音(はつね)」の巻には光源氏が正月に紫の上のもとを訪れた時に、女房が「わが君の千年の栄(さかえ)を鏡餅に祈っていました」という場面が描かれています。
鏡餅は単なる飾りではありません。
物には神様の魂が宿り、また心を象徴するという日本の伝統が表われたものなのです。
今日の心がけ◆日本の伝統を知りましょう
職場の教養 2025年1月号
感想例①
鏡餅って、よく考えたら不思議な存在だなと思います。
家の中に餅を飾って、それを神様の依代として大切にするなんて、日本ならではの感覚ですよね。
私の祖母も、毎年鏡餅を丁寧に飾っていましたが、その時の静かな手つきを思い出すと、今になって「ああ、こういう意味があったんだ」と納得できます。
加藤楸邨の俳句を読んで、実家の正月を思い出しました。
兄弟が皆、別々の場所で暮らすようになった今、実家の鏡餅は、それでも変わらず私たち家族の幸せを願い続けているんだろうなぁ、と少し胸が熱くなりました。
感想例②
正直に言うと、私の家では最近、鏡餅を飾るのが面倒になってきています。
子どもたちに「なんで鏡餅を飾るの?」と聞かれても、うまく説明できなくて困ってしまいます。
実は、月と太陽を表していることも、この文章で初めて知りました。
スーパーで売っている既製品の鏡餅を買って、なんとなく飾って、なんとなく片付けて…という繰り返しに、どこか心もとない気持ちがありました。
でも、その寂しさこそが、何か大切なものを見失っているというサインなのかもしれません。
感想例③
祖母が「鏡開き」の時に、必ず家族全員分の椀にお餅を入れていたことを思い出しました。
不在の家族の分まで用意する祖母に、子供の頃は「もったいない」と思っていましたが、今なら分かります。
その時の祖母の気持ちは、きっと源氏物語に出てくる女房たちと同じだったんですね。
千年も前から、家族の幸せを願う気持ちは変わっていないんだなぁ。
そう考えると、私も今度から、ちょっとだけ丁寧に鏡餅を飾ってみようかなと思います。